先日、不動産関連の顧問先より、「現在所有する建物の賃借人から、第三者に敷金返還請求権(譲渡禁止特約付)を譲渡したいので、異議なく承諾してほしいとお願いされましたが、大丈夫でしょうか。」との相談がありました。

まず、前提として、譲渡禁止特約の付いている債権を譲渡するためには、債務者の承諾が必要です。
譲渡禁止特約は、債務者の利益のための制度であり、債務者が自ら便宜を放棄できると考えられているからです。

したがって、建物の所有者兼貸主とはいえ、敷金返還請求権に関しては債務者に該当しますので、「債務者として」債権譲渡されることに問題がない場合、「承諾」すれば、法的には問題がないことになります。

但し、ここで注意すべきなのが「異議なき承諾」という法的概念です。

譲渡禁止特約のない通常の債権譲渡があった場合、債務者は「旧債権者に主張できた事由」を新債権者に対して主張することができます。
例えば、「100万円の債務より既に旧債権者に20万円を支払ったから、債務残額は80万円である」「敷金の○%はいかなる場合であっても返還しない」等の事由です。

しかし、「異議なき承諾」があった場合、法的には、債務者は上記のような旧債権者に対して主張できた事由を新債権者に主張できなくなってしまいます。
すなわち、「異議なき承諾」には極めて強い法律効果が付与されていますので、「異議なき承諾」を求められた場合には十分に注意する必要があります。

更に注意すべき点として、法律上や書面上、「異議なき承諾」や「異議をとどめない承諾」という言葉を使いますが、単に「承諾する」と言っても、法律上は「異議なき承諾」と評価されてしまう可能性がある点です。

そこで、仮に債権譲渡そのものには異議がなくても、旧債権者に主張できた事由を新債権者に主張できないことには異議がある場合は、「承諾する」という文言に加え、主張したい事項等を具体的に明記しておくべきと言えます。

例えば、「債務者が、譲渡対象債権に関し、旧賃借人に対して主張できる〇〇という権利及び抗弁等について、新賃借人が全て承継する」と付しておくことが有用と言えます。

敷金返還請求権等の債権譲渡の「異議なき承諾」については、上記の通り、様々な注意点が潜んでいますので、対応には十分にご注意下さい。

敷金譲渡の承諾
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