明渡しみなし条項の有効性
今回は、「明渡しみなし条項の有効性」についてです。 先日、不動産オーナーである顧問先より、「テナントが長期間使用しておらず賃料等も支払わない場合には明け渡したものとみなす旨の条項は、法的に有効でしょうか。」との質問を受けました。 まず、実態として上記質問のような状況はしばしば発生します。 賃料の滞納から始まり、そのうち連絡がつかなくなり、貸室を利用している様子も伺われないような状況です。 この場合、賃貸人からみれば、早く貸室から賃借人の物を除去して、新たなテナントに賃貸したいと考えるのが通常でしょう。 この点、賃借人に対して未払賃料の請求や明け渡しの請求は当然可能ですが、その権利行使の方法には注意する必要があります。 自らの物理的な実力行使によって権利を実現することは、自力救済禁止の観点から、法的に認められません。 そのため、上記のような「明渡しみなし条項」を規定したとしても法的には無効である点に注意が必要です。 むしろ勝手に明渡しを実現した後で、賃借人から損害賠償請求を受けた場合には、基本的にはその支払義務等を免れません。 この点、裁判例(大阪地裁令和元年6月21日)においても、下記のように判断されています。 「原契約が終了しておらず,いまだ原契約賃貸人に賃借物件の返還請求権が発生していない状況で,被告等が自力で賃借物件に対する原契約賃借人の占有を排除し,原契約賃貸人にその占有を取得させることに他ならず,自力救済行為であって,本件契約の定めいかんにかかわらず,法的手続によることのできない必要性緊急性の存するごく例外的な場合を除いて,不法行為に該当する」 以上の通りですが、ご参考になりましたら幸いです。 なお、民事法研究会が発行する「市民と法」(No.153 2025年6月号)における「最新法務事情13」の項において、「賃料増額請求の法的問題点」として寄稿させて頂きました。 司法書士向けの情報誌になりますが、ご興味のある方がいらっしゃいましたら、 お手にとって頂ければ幸甚です。 https://www.minjiho.com/book/b10136518.html