先日、顧問先より、「当社の従業員が横領をしていることが発覚したため、懲戒解雇を予定しています。退職金も不支給にして問題ないでしょうか。」との質問を受けました。

就業規則等において、労働者に懲戒解雇事由が存在する場合に、退職金の全部又は一部を不支給とする規定がある場合が多いです。
このような規定があれば、法的に不支給にできる可能性があります。

もっとも、勤続年数が長い場合など、その規定を適用すると、労働者に必要以上に不利益を及ぼす場合があります。
退職金は、賃金の後払いという性質もあるため、労働者に非違行為が存在するとしても、無制限に不支給が認められるものではないと考えられています。

具体的には、「それまでの勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背信行為」であると認められる場合に限り、退職金を不支給とすることを認めるというように、その適用範囲を限定して解釈されています(東京高判平成15年12月11日等)。
このように、懲戒解雇が有効と認められる場合でも、退職金不支給が認められるハードルはさらに高いものであることに注意が必要です。

なお、異なる事案として、退職後において(退職金の支給後において)、懲戒解雇事由が発覚することも考えられます。
その場合において、当該元社員に対して退職金の返還を求めるためには、就業規則等において「懲戒解雇に相当する事由が認められる場合」には不支給とする旨を規定しておく必要があります。

この点、「懲戒解雇の場合」等の規程では、懲戒解雇をしたことが条件となってしまい、退職後に返還を求めることはできなくなってしまうからです。
もっとも、そもそも退職金の支給後にそれを取り返すことは事実上難しいことには注意が必要です(横領等のケースでは既に退職金等は費消していることも多いです)。
懲戒解雇と退職金の不支給
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