先日、顧問先より、「定年後再雇用する従業員の給料を引き下げたいのですが、法的に問題ないでしょうか。」との質問を受けました。
正社員が定年を迎えたものの、依然として働く意欲があり、会社としても人手不足解消の観点から雇用を継続したい場合、非正規雇用として採用するケースがあります。
労働契約は定年によって一旦は終了し、新たな有期契約を締結することになりますので、両者の合意がある限り、労働条件については自由に決定できるのが原則です。
とはいえ、会社としては非正規社員ということもあり給料を引き下げる要望があり、一方で、社員から見れば仕事内容自体は異ならないことが多いため、合意に至ることが難しいケースもあります。
この点、平成30年の働き方改革関連法において、それまで短時間労働者を保護していた法律において、有期雇用労働者も保護対象として含まれることになりました。
具体的には、短時間労働者又は有期契約労働者と正規社員において、その待遇差を合理的なものとしなければなりません(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条)。
いわゆる「同一労働同一賃金」と呼ばれる論点ですが、上記の定年後再雇用においても問題となり得ます。
裁判所においては、基本給や手当等の支給ごとにその趣旨を認定した上で、不合理でないか否か等をその判断基準としています(最判令和5年7月20日等)。
もっとも、定年後再雇用の場合は、長期雇用を前提としていないという特殊性もあります。
そのため、定年後再雇用の有期契約社員については、他の一般的な有期契約社員に比べますと、裁判所において、「不合理な労働条件の格差である」との認定を受ける可能性は低いとはいえそうです。
この辺りの裁判実務については、上述した最高裁において、控訴審へ一旦差し戻されていまして、近い将来新たな考え方が提示される可能性もあります。
昨今は働き方に関する国民の考え方も多様化していますし、一概には決められないものの、令和5年の最高裁の考え方を念頭に置きつつ、今後の裁判動向にもより注視しておくべきと考えます。
以上の通りですが、少しでもご参考になりましたら幸いです。