先日、顧問先より、「退任した取締役から、これまでの慣行に基づいて退職慰労金を支払ってほしいと言われていますが、支払う義務があるのでしょうか。」との質問を受けました。

中小企業においては、退任取締役に対する退職慰労金について、「慣行」に則って支給しているケースもあり得るかもしれません。
このようなケースでは、退任取締役より、法律的な根拠というよりも、「慣行」に基づいた概算的な退職慰労金の支払請求がされる可能性はあります。

退職慰労金は、取締役の「報酬等」に該当すると解釈されており、会社として支給するためには、会社法上、株主総会決議が必要とされています(会社法361条1項)。
そのため、「慣行」は、退職慰労金の請求根拠にはならないことが原則と言えます。

この点、東京地判平成27年7月21日は、上場企業における退職慰労金について、骨子として下記のように判断して、退任取締役からの退職慰労金の請求権を否定しました。
具体的には、「会社の取締役ないし監査役については、定款または株主総会の決議によって、報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生しないので、取締役が会社に対し報酬を請求することはできないところ、この理は、内規で退職慰労金の支給基準が定められ、これまで退職慰労金の支給がされてきた慣行がある場合であっても、同様である。」という判断でした。

但し、株主総会決議がなかったとしても、株主全員の同意があれば「報酬等」を請求することは可能と解釈できるでしょう(最判平成15年2月21日参照)。
また、株主全員の同意がない場合であっても、事実上株主の了解を得て慣行とされてきた手続を経て、報酬等の支給決定がされ、実質的に株主の利益が害されないなどの特段の事情が認められる場合には、総会決議等がないことを理由に会社が報酬等の支払いを拒絶することは信義則上許されない旨を判示している裁判例もあります(東京高判平成15年2月24日等)。

上記の通り、退職慰労金の支給については、原則として株主総会決議が必要ですが、ケースによっては株主総会決議がなかったとしても支給を認める場合がありますので、十分に注意が必要です。

退職慰労金の支給慣行
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