今回は、「取締役退任後の競業避止義務」についてです。

先日、「取締役が退任して、同種のビジネスを始めるようなのですが、競業避止義務を課すことはできませんか。」という相談を受けました。

取締役は会社の営業ノウハウを広汎に知り得る立場にあるため、取締役が退任する際、競業避止義務を課すことができれば、会社にとって非常に有用です。
会社法においても、取締役の競業行為は承認が必要とされ、手続を懈怠した場合には損害賠償を請求される場合もあります(356条等)。

しかし、上記規定は、取締役の「在任中のみ」に適用され、取締「退任後」は適用されません。
そのため、会社として、取締役退任後にも競業避止義務を課したい場合には、退任取締役と別途合意しておく必要があります。

但し、上記合意は、退任取締役の営業の自由等の憲法上の権利を侵害しないかという大きな問題にもなり得ます。

この点、東京地方裁判所(平成21年5月19日)において、
「無限定に競業避止義務を定める合意を有効と解するのは相当でなく、
競業の制限が合理的かつ必要な範囲を超える場合、当該合意は、公序良俗に反し無効となるというべきである。」
と判断されています。

以上の通り、裁判所としては、退任取締役との競業避止義務の合意について、慎重に有効性を判断する傾向にあると言えるでしょう。
そのため、会社としては、競業を禁止する範囲、地域、期間、代償措置など、十分な合理性が認められるよう配慮することが重要と考えられます。

取締役退任後の競業避止義務
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