今回は、「管理職手当と固定残業代」についてです。
先日、顧問先より、「退職した管理職の社員より、残業代を請求されましたが、管理職手当は残業代に充当されないのでしょうか。」との質問を受けました。
まず、当該労働者が労働基準法上の管理監督者に該当する場合には、会社がいわゆる残業代を支払う義務はありません(労働基準法41条2号)。
労働時間規制を超えて活動することが要請される重要な職務と責任を持っていることがその趣旨になります。
もっとも、この「管理監督者」の該当性について、従業員より争われることも多く、客観的に見て該当しないケースも多いです(この判断要素も重要な論点ですが今回は割愛します)。
そのような場合には、通常の社員と同様に残業代を支払うべきだったということになってしまいます。
この点、一般的には、会社は、管理監督者に対して、その職責のみならず、残業代が発生しないことも踏まえて、管理職手当を支給していることが多いです。
そこで、会社側の主張として、管理職手当は残業代の趣旨を含むのであるから、残業代に充当できるのではないか(いわゆる固定残業代)が問題となりやすいです。
固定残業代が有効となるためには、固定残業代が残業の対価として支払われていること(対価性)、通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別することができること(明確区分性)が必要です(最判平成29年2月28日)。
この点、管理職手当には、その職務内容や職責の大きさに対する対価の意味合いが含まれていることが一般的であり、管理職手当のうち、どの部分が残業代に当たるのかを区別することは困難です。
もっとも、給与規則において「管理又は監督の地位にある職員に対し管理職手当を支給する」と規定されていた事案において、管理監督者性を否定された場合には、当該労働者はその給付を受ける権限がないものと判断された裁判例があります(東京高判令和元年12月24日)。
そのため、管理職手当を残業代に充当できないとしても、既に支払った管理職手当の返還を求めることはできる可能性があります。
この点、管理職手当は労働基準法上の管理監督者であることを前提として支給している旨を賃金規程に明記しておくことが重要といえそうです。
以上の通りですが、ご参考になりましたら幸いです。
管理職手当と固定残業代


